「予算どおりに利益が出ているのか」「利益率が低下している原因は何か」「どの事業や案件で改善が必要なのか」。こうした問いに答えるために欠かせないのが予実管理です。
予実管理は、予算と実績の差異を把握し、その原因を分析して経営改善につなげるための管理手法です。しかし、多くの企業では「予算や実績の集計に時間がかかる」「部門ごとに数字が分散している」「結果を見ても差異の原因まで分からない」といった課題を抱えています。予実管理を高度化するには、会計システムだけでなく、販売管理、案件管理、勤怠管理などに分散したデータを必要な粒度で組み合わせ、経営判断に必要な情報をタイムリーに把握できる環境を整えることが重要です。
本記事では、予実管理の基本から、Excel管理の限界、予実管理システム導入のメリット、データ統合が必要な理由、導入事例、導入時のポイントまで、実務の視点で解説します。
INDEX
予実管理とは
予実管理とは、予算(計画)と実績を比較し、その差異を把握・分析して改善につなげる経営管理手法です。重要なのは、単に「予算比プラス・マイナス」を確認することではありません。例えば利益が計画を下回っている場合でも、その原因は売上数量の減少、販売単価の低下、原材料費の上昇、人件費や工数の増加などさまざまです。
差異を要因ごとに分析することで、
- 価格を見直す
- コストを削減する
- 要員配置を変更する
- 営業施策を見直す
といった具体的な改善策を検討できます。つまり、予実管理の目的は「数字を管理すること」ではなく、「数字を使って経営を改善すること」にあります。
予実管理は、企業全体の経営活動を管理する「経営管理」を支える機能の一つでもあります。経営管理では財務、人事、営業、生産など幅広い情報を踏まえて意思決定を行いますが、その判断材料となる売上、利益、原価、工数などを把握する役割を予実管理が担います。
予実管理で管理する代表的な指標
予実管理では、経営判断や改善活動に必要な指標を設定します。代表的な指標には次のようなものがあります。
- 売上
- 粗利益
- 営業利益
- 原価
- 人件費
- 販売管理費
- 工数
- 案件別採算
- 部門別収益
- キャッシュフロー
また、全社や部門単位だけでなく、案件別・顧客別・製品別などの単位で管理する方法もあります。例えばITサービス業では、部門全体では黒字でも、一部の案件で工数超過が発生し、利益を圧迫しているケースがあります。全社や部門の数字だけでは、このような問題を特定することは困難です。
一方で、管理粒度を細かくし過ぎると入力やデータ管理の負荷が増加します。「確認できるデータをすべて管理する」のではなく、「その数字を使って何を判断するのか」から必要な指標と管理粒度を決めることが重要です。
Excel中心の予実管理では限界がある
Excelは柔軟性が高く、予実管理を始める手段として有効です。しかし、部門数や案件数、管理項目が増えるほど、運用負荷も大きくなります。
例えば、
- データ加工や突合に時間がかかる
- 集計方法が属人化する
- ファイルが複数に分散する
- 転記ミスや関数ミスが発生する
- 最新版が分からなくなる
- 集計方法が属人化する
- データ加工や突合に時間がかかる
といった課題です。
会計システムのデータだけでは十分とは限らない
「Excelをやめて会計システムのデータを使えばよい」と考えることもできますが、予実管理では会計データだけでは十分な分析ができない場合があります。会計システムには売上や費用などの数値が集約されています。一方、会計処理の過程で情報が集約されることで、
- どの案件で発生した売上なのか
- どの顧客・製品の収益なのか
- どの案件で工数が増えているのか
- どこで外注費や原価が増加しているのか
といった、原因分析に必要な粒度の情報が十分に残っていない場合があります。また、会計実績が確定するまでに時間がかかる運用では、利益率低下などを把握した時点で、すでに対応が遅れている可能性もあります。
そのため、予実管理では会計システムだけでなく、販売管理、案件管理、勤怠管理などのデータも必要に応じて組み合わせることが重要です。例えば、会計データと案件情報、工数情報を案件番号で紐づければ、案件ごとの売上、原価、工数、利益率を同じ軸で確認できます。
データ統合の目的は、単に複数システムの数字を一か所に集めることではありません。会計データだけでは把握しにくい分析粒度を補い、必要な情報を必要なタイミングで組み合わせることで、差異の原因を多角的に分析できる状態をつくることにあります。
なぜ今、予実管理が重要なのか
市場環境の変化が速い現在では、結果を確認するだけでなく、変化を早期に把握して改善活動につなげることが重要になっています。原材料価格、人件費、為替、需要、サプライチェーンなど、企業を取り巻く条件は短期間で変化することがあります。例えば、利益率が低下している案件や予算超過が見込まれる部門を早期に把握できれば、
- 要員配置の見直し
- コスト削減
- 価格交渉
- 販売施策の変更
- 予算配分の見直し
などを検討できます。
予実管理システム導入のメリット・実現できること
予実管理そのものはExcelでも行うことができます。予算と実績を入力し、差異を計算・分析するだけであれば、必ずしも専用のシステムが必要なわけではありません。一方、部門や拠点、案件、顧客、製品など管理する対象が増え、会計システムだけでなく販売管理、案件管理、勤怠管理など複数のシステムからデータを取得するようになると、Excelによる集計・更新には多くの工数がかかります。
また、予実管理を経営改善につなげるためには、単に予算と実績を比較するだけでなく、「どこで差異が発生しているのか」「なぜ差異が生じたのか」を必要な粒度で分析することが重要です。
予実管理システムを活用し、必要なデータを連携・統合することで、こうした分析を継続的かつ効率的に行いやすくなります。
集計・データ加工作業を効率化できる
Excel中心の予実管理では、各部門からファイルを回収し、会計システムや販売管理システムなどからデータを抽出して、転記・加工・突合する作業が発生します。予実管理システムと既存システムを連携することで、必要なデータを集約し、こうした手作業を削減できます。
管理部門が「数字を作る作業」に費やしていた時間を減らし、差異の原因分析や改善策の検討に時間を使いやすくなることがメリットです。
必要な情報をタイムリーに把握しやすくなる
Excelで月次の実績を集計する運用では、各部門からのデータ回収や加工に時間がかかり、経営状況を把握するまでに時間差が生じることがあります。また、会計実績の確定を待って分析する場合も、問題を把握するタイミングが遅くなる可能性があります。
予実管理システムに販売実績、案件情報、工数などのデータを適切なタイミングで連携することで、会計確定後の結果だけに依存せず、状況の変化をより早い段階で確認しやすくなります。例えば、案件進行中に工数の増加や採算の変化を確認できれば、案件完了後に赤字を認識するのではなく、進行中に改善策を検討できます。
複数のデータを組み合わせて多角的に分析できる
会計システムには売上や費用などの数値が集約されていますが、会計データだけでは「なぜ差異が発生したのか」まで分析できない場合があります。
予実管理システムに、
- 会計システムの売上・費用
- 販売管理システムの顧客・製品・受注情報
- 案件管理システムの案件・進捗情報
- 勤怠管理システムの工数情報
などを連携することで、案件別・顧客別・製品別・部門別など複数の切り口から予算と実績を分析しやすくなります。例えば、「利益が計画を下回っている」という結果だけでなく、「特定案件で工数が増えている」「特定顧客の売上が減少している」など、差異が発生した原因を具体的に把握しやすくなります。
経営層から現場まで同じデータを活用しやすくなる
Excel中心の運用では、管理部門が集計した資料を経営会議で確認するなど、予実管理が一部の担当者だけの業務になりやすいという課題があります。予実管理システム上で共通のデータを確認できる環境を整えることで、経営層や管理部門だけでなく、部門責任者や営業担当者、プロジェクトマネージャーなども、自分たちに必要な数字を確認しやすくなります。
例えば、プロジェクトマネージャーが担当案件の予算、実績、工数、利益率を確認できれば、工数超過や採算悪化に気づき、現場で改善策を検討できます。
このように、予実管理システムの役割は、単にExcelを置き換えることではありません。複数システムに分散したデータを必要な粒度・タイミングで利用できる環境を整え、予実管理を「数字を集計する業務」から「差異の原因を分析し、経営や現場の改善につなげる仕組み」へ発展させることが、システム化の大きなメリットです。
当社が支援した案件別採算管理・予実管理の事例
予実管理を経営改善につなげるには、システムを導入するだけでなく、管理する指標を明確にし、必要なデータを統合した上で、現場で継続的に利用できる仕組みを構築する必要があります。
ここでは、当社が情報通信業のお客様に対して支援した案件別採算管理・予実管理の事例を紹介します。
導入前の課題
対象企業では部門単位の予算管理は実施していましたが、案件単位で収益状況を把握する仕組みがありませんでした。
売上や利益は月次決算後に確認できるものの、
- どの案件で利益率が低下しているのか
- どこで工数超過が発生しているのか
- どの案件に改善が必要なのか
を進行中に把握することが困難でした。また、勤怠管理、案件管理、会計など複数のシステムにデータが分散していたため、管理部門では毎月Excelによる集計作業が発生していました。会計データだけでは案件ごとの工数などを十分に把握できず、採算悪化の原因を分析するためには複数システムの情報を個別に確認する必要がありました。
導入内容
当社では、管理会計クラウド「Amoeba Pro」を活用し、案件別採算管理の仕組みを構築しました。
まず、経営層・経営企画・管理部門・現場へのヒアリングを行い、「どの数字が見えれば意思決定できるのか」「どの単位で利益を管理する必要があるのか」を整理し、管理すべきKPIや粒度を定義しました。その上で、勤怠管理、案件管理、会計などの既存システムとの連携を設計しました。
会計の金額情報だけでなく、案件情報や工数情報を組み合わせることで、案件ごとの売上・原価・工数・利益率を同じ軸で確認できる基盤を構築しました。さらに、案件開始時の採算計画と進行中の実績を比較できる仕組みを整え、利益率の低下や工数超過などの変化を把握し、改善を検討できる環境を整備しました。
プロジェクト成功のポイント
本プロジェクトでは「システムを導入すること」ではなく、「予実管理を継続して活用できること」を重視しました。
具体的には、
- 経営課題から必要なKPI・管理粒度を定義する
- 案件番号や部門コードなどを整理してデータを統合する
- 現場の入力負荷を考慮して運用を設計する
- システム稼働後も利用定着を支援する
といった取り組みを行いました。特にデータ統合では、単に複数システムの情報を集約するのではなく、会計データだけでは把握しにくい案件情報や工数情報を組み合わせ、差異の原因を分析できる状態を目指しました。
導入効果
導入後は、案件単位で利益率や時間当り採算を必要なタイミングで確認できる環境が整いました。また、会計情報だけでなく、案件情報や工数情報を組み合わせることで、採算悪化の原因を複数の観点から確認しやすくなりました。従来Excelで行っていた集計作業の負荷も軽減され、管理部門が差異分析や経営改善の検討に時間を使いやすい環境を整えています。
さらに、営業担当者やプロジェクトマネージャーも案件採算を確認できるようにすることで、現場で採算を意識した案件運営を行うための基盤を構築しました。
予実管理の進め方と失敗しないポイント
予実管理を成功させるためには、システム選定から始めるのではなく、実現したい経営管理から逆算して設計することが重要です。
基本的には、
管理目的の整理 → 管理粒度・KPIの設計 → 必要なデータの特定 → データ連携・統合 → 運用設計・定着
の順で検討します。
管理目的とKPIを明確にする
まず、「何を管理し、どのような意思決定につなげたいのか」を明確にします。例えば案件別の利益改善が目的であれば、案件単位で売上、原価、工数などを確認できる設計が必要です。管理できる情報を増やすことを目的にせず、経営判断に必要なKPIと粒度に絞ることが重要です。
必要なデータと連携方法を設計する
次に、分析に必要なデータがどのシステムに存在するのかを整理します。例えば案件別採算を分析するのであれば、会計データだけでなく、案件管理や勤怠管理のデータが必要になる場合があります。
その上で、
- どのシステムから
- どのデータを
- どのタイミングで取得し
- どの項目で紐づけるのか
を設計します。案件番号、部門コード、顧客コードなどのマスタやデータ定義を揃えることも重要です。
Excel運用をそのままシステム化しない
既存のExcel管理をそのままシステムへ置き換えると、不要な入力や複雑な業務まで引き継ぐ可能性があります。システム導入を機に、不要な入力項目や集計作業を見直し、自動化できる業務を整理することが重要です。
システム化の目的はExcelをなくすことではなく、集計作業を減らし、分析や改善に使える時間を増やすことにあります。
現場で使い続けられる運用を設計する
予実管理は、システムを稼働させれば完了するものではありません。入力ルール、データ更新のタイミング、レビュー方法などを設計し、現場で継続的に利用されて初めて効果を発揮します。
管理項目を増やし過ぎると現場負荷も増えるため、「数字を見る」だけでなく「数字を使って改善する」運用を定着させることが重要です。
まとめ
予実管理とは、単に予算と実績を比較する仕組みではなく、差異の原因を分析し、経営判断や改善活動につなげるための経営管理手法です。その際、会計システムのデータだけでは十分とは限りません。会計処理によって情報が集約されることで、案件別・顧客別・製品別・工数別など、原因分析に必要な粒度が失われる場合があります。また、会計実績の確定を待つことで、変化の把握が遅れることもあります。
そのため、販売管理、案件管理、勤怠管理などに分散したデータを必要な粒度とタイミングで組み合わせ、「どこで、なぜ差異が発生しているのか」を多角的に分析できる環境を整えることが重要です。
また、予実管理はシステムを導入するだけでは成果につながりません。「どのような経営判断を実現したいのか」を起点として、管理目的・KPI・管理粒度を整理し、必要なデータの特定、システム連携、運用設計、現場定着までを一体で進めることが、予実管理を経営改善につなげるポイントです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 予実管理とは何ですか?
予実管理とは、予算(計画)と実績を比較し、その差異を分析して改善につなげる経営管理手法です。単に差を確認するだけでなく、差異が発生した原因を分析し、改善策や次の計画へ反映することが重要です。
Q2. 予実管理と予算管理の違いは何ですか?
予算管理は、予算の策定や配分、実績の確認などを通じて予算を管理する活動です。一方、予実管理は予算と実績を比較し、差異の原因を分析して改善につなげることに重点を置きます。
Q3. Excelでも予実管理はできますか?
可能です。ただし、部門数や案件数、管理項目が増えると、データ回収、更新、突合、集計などの負荷が増えやすくなります。複数システムのデータを利用する場合には、管理会計システムやBIツールなどの活用も選択肢となります。
Q4. 会計システムのデータだけでは予実管理できないのですか?
売上や費用、利益などの予算と実績を比較することは可能です。
ただし、会計処理によってデータが集約されることで、案件別・顧客別・製品別・工数別など、原因分析に必要な情報が十分に残っていない場合があります。また、会計実績が確定するまでの時間差によって、変化の把握が遅れることもあります。
多角的な原因分析や早期の状況把握には、販売管理、案件管理、勤怠管理などのデータも組み合わせることが有効です。
Q5. 予実管理を成功させるポイントは何ですか?
まず「何を管理し、どのような意思決定につなげたいのか」を明確にすることです。
その上で、KPIや管理粒度を設計し、必要なデータの特定、既存システムとの連携、運用設計、現場への定着までを一体で進めることが重要です。





