SaaS型ERPとは?クラウドERPとの違いを紹介

業務の効率化や経営判断の迅速化を実現すべくERP導入を考えている企業から注目されているのがSaaS型ERPです。本記事では、SaaS型ERPとは何か、クラウドERPなどとの違い、メリット、注意すべき点などについて解説します。
目次
SaaS型ERPとは
SaaS型ERPとは、インターネット経由でERP(Enterprise Resource Planning)システムを利用するクラウドERPの一種です。
自社内にサーバーを設置してシステム構築を行うオンプレミス型と異なり、自社でサーバーや回線を用意する必要がありません。そのため、初期コストを抑えつつ、短期間で導入することができます。また、運用・管理・保守に手間をとられず、常に最新機能を利用できるのも大きな利点です。
SaaSとは
SaaSは「Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)」の略で、「サース」もしくは「サーズ」と読みます。月額や年額を支払うサブスクリプション方式で、ソフトウェアをインターネット経由で利用するクラウドサービスです。
クラウドサービスには、SaaS以外にもPaaS(Platform as a Service)やIaaS(Infrastructure as a Service)などがあります。それぞれの違いを図表にまとめましたのでご覧ください。
【SaaS・PaaS・IaaSの違い】
|
SaaS |
PaaS |
IaaS |
サービス内容 |
ソフトウェアをクラウドサービスとして提供 |
ソフトウェアを動かすためのプラットフォームをインターネット上で提供 |
サーバー、ネットワーク、ストレージなどのインフラをインターネット上で提供 |
サービス提供範囲 |
・アプリケーション |
・ミドルウェア ・OS ・ハードウェア ・ネットワーク |
・OS |
ERPとは
ERPとは「Enterprise Resource Planning(企業資源計画)」の略称です。ERPは会社の経営資源を有効活用するために、会社の「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」に関するデータを一元管理するシステムです。
販売、生産、在庫、財務、人事など、企業内の基幹業務に関する情報を部門横断的に一元管理することで、業務の効率化や経営においての迅速な判断につなげるというのが、ERPの主な狙いです。ERPの詳細については以下の記事をご覧ください。
SaaS型ERPと他システムとの違い
ERPは大きく分けてオンプレミス型とクラウド型の2種類があり、さらにクラウド型はベンダーから受けるサービスの提供内容と範囲によって「SaaS型」「PaaS型」「IaaS型」に分かれます。
オンプレミス型は自社サーバーにERPシステムを構築し、自社で運用・管理・保守を行う形態のERPです。自社に合わせたカスタマイズができますが、導入コストが高く、運用負担が大きいというデメリットがあります。
クラウド型は、オンプレミス型に比べて初期費用や運用負担が軽減でき、短期間で導入が可能です。なかでも「SaaS型ERP」は、運用・管理・保守の負担が特に少ないため、社内のITリソースが少ない企業にも適しています。
SaaS型ERPとクラウドERPの違い
クラウドERPは、クラウド環境で提供されるERP全般を指します。SaaS型ERPはクラウドERPの一種です。
クラウドERPの中でもベンダーが提供するサービス範囲が広く、サーバーやネットワークといったインフラ類から、アプリケーション、ミドルウェア、OSまでをベンダーが一括で提供し、運用・管理・保守します。インターネット環境さえあればよいため、初期コストを抑えつつ、スピーディーな導入と運用が可能です。
SaaS型ERPを選ぶメリット
SaaS型ERPには、導入時のハードルの低さをはじめ、運用・管理・保守、コスト、海外拠点との連携やリモートワークといった使用環境、人材の活用などの面において多くの利点があります。代表的なメリットを以下で紹介します。
短期間で導入できる
オンプレミス型や他のクラウドERPに比べて、SaaS型ERPは短期間で導入ができます。ベンダーがクラウド上で稼働させているソフトウェアを利用するため、自社でサーバーなどのインフラを用意したり、システム構築をしたりする必要がないからです。また、標準機能がパッケージ化されているので、基本的にはカスタマイズ期間も必要ありません。インターネット環境さえあれば、迅速に運用を開始できます。
低コストで運用できる
SaaS型ERPでは、導入時のインフラ準備、システム構築、アプリケーション開発が不要です。導入時にかかる基本ライセンスの費用もオンプレミス型に比べて安価なので、初期費用を低く抑えることができます。
ユーザーライセンスの費用などサブスクリプション方式で継続的にランニングコストはかかりますが、オンプレミス型では自社のIT人材を使って行っている運用・管理・保守をベンダーが担うため、導入後も低コストでの運用が可能です。
保守運用の負担が少ない
SaaS型ERPでは、基本的にベンダーが運用・管理・保守を行います。ソフトウェアの更新、法改正への対応、セキュリティ対策、システムトラブルや障害発生時の対応・復旧なども担ってくれるため、自社のIT部門、情報システム担当者の負担を大幅に軽減することが可能です。
運用・管理・保守には、手間や費用はもちろん、スキルも必要とされるため、この負担の軽減はITリソースが限られた中小企業では特に大きなメリットと言えます。
アップデートされるので最新機能が常に使える
SaaS型ERPでは、定期的にアップデートが実施されて、常に最新バージョンの機能やセキュリティ対策がベンダーから提供されます。ユーザー側で更新やバージョンアップを行う必要がなく、「2027年問題」として取り上げられている保守サポート切れを心配する必要もありません。法改正への対応、進化を続けるIT技術への対応、ビジネス環境や市場変化への適応など、改善点や新機能が随時反映されます。
一方、PaaS型・IaaS型・オンプレミス型ERPは、いずれも数年ごとに自社でバージョンアップ対応が必要となり、多くのコストが発生します。
PaaS型・IaaS型・オンプレミス型ERPのバージョンアップ対応はERPアプリやOSなどのミドルメーカーの保守切れに起因することも多いので、バージョンアップのコスト発生リスクに注意しましょう。
SaaS型ERPであれば、ベンダー側で年に数回バージョンアップが実施され、さらにそのコストはライセンス料に含まれています。そのため、バージョンアップ対応による追加コストのリスクはありません。
IT人材が不足していても運用できる
SaaS型ERPを導入すれば、IT人材が不足していても運用できるメリットがあります。なぜなら、システム開発や保守サポートをベンダーが対応してくれるからです。
例えば、オンプレミス型のERPシステムを自社で導入する場合、サーバーの設置やシステム構築、システムの保守メンテナンスなどを行わなければなりません。必然的に、ERPシステムの仕組みを深く知っているIT人材が必要です。しかし、SaaS型ERPであれば、自社でシステム構築スキルのあるIT人材を確保する必要はありません。だから、SaaS型ERPはIT人材が不足していても運用できるのです。
経済産業省によると、日本では2030年までにIT人材が最大で約80万人不足するそうです。また、同省は、欧米などと比べてIT人材がIT関連企業に集中しており、ユーザー企業に従事する割合が低いともしています。
出典|厚生労働省「IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査事業」調査報告書 p.3
SaaS型ERPは、導入から運用・管理・保守までベンダーのサポートが手厚いため、専門知識のあるIT人材が不足している場合や情報システム部門のリソースに限界がある場合でも安定した運用が可能です。
メインの業務に集中できる
SaaS型ERPでは、インフラからアプリケーションまでをベンダーが一括で提供して管理するため、自社の運用負担が軽減されます。したがって、情報システム部門に余裕が生まれれば、メインの業務や新たなIT戦略にリソースを回すことが可能です。
また、ERP導入によって社内データの一元管理と業務の自動化が実現し、手作業や重複業務が軽減されて効率化が進めば、雑用に費やされていたリソースもメイン業務に集中させられます。
SaaS型ERPを選ぶ際の注意点
多くのメリットや利便性があるSaaS型ERPですが、導入するうえでの注意点もいくつか存在します。メリットを享受して導入目的を達成するためには、SaaS型ERPの特性を理解した上で選定を行うことが大切です。ここでは、SaaS型ERPを選ぶ際の注意点を紹介します。
カスタマイズがしにくい
1つ目の注意点は、SaaS型ERPはカスタマイズがしにくい点です。なぜなら、カスタマイズがしにくい分、システムの標準機能にあわせて業務フローを変える必要があるためです。
SaaS型ERPは多くの企業、多くのユーザーが使えるような標準機能を備えています。しかし、事業形態、業務フローなどが特殊な企業とはうまくマッチしないこともあるため、選定時に確認が必要です。
カスタマイズがしにくく、自社の業務フローに合わないリスクを回避するためには、自社の業界や事業規模の導入実績が豊富なベンダーのSaaS型ERPを選ぶと良いでしょう。
セキュリティレベルがベンダーに依存する
SaaS型ERPを導入する際の注意点の2つ目は、「セキュリティレベル
がベンダーに依存する」です。SaaS型ERPはベンダーがインフラからアプリケーションまでを一括で提供し、運用・管理・保守も行うため、システムのセキュリティレベルはベンダーに依存します。
セキュリティレベルが高いSaaS型ERPを導入するために、信頼に足るベンダーに依頼しましょう。具体的には、ベンダーの導入実績の豊富さ、セキュリティ対策、システムトラブル時の復旧・対応について、選定時に確認しておくとセキュリティレベルの高いSaaS型ERPを選びやすくなります。
オフラインだと利用できない
SaaS型ERPはオフラインだと利用できないことにも注意しましょう。SaaS型ERPは、インターネット経由でシステムを利用するクラウドサービスです。
そのため、インターネット環境があればどこからでもアクセスできる反面、オフライン環境では利用できません。インターネットの通信が不安定もしくは速度が遅い環境下にいる場合、通信障害時やネットワークのトラブルが起きた場合、災害でネットワークが遮断された場合などは、業務がすべてストップしてしまうなどの支障が出る恐れがあります。
サービス品質保証(SLA)をベンダーに確認しておき、セキュリティレベルの高いベンダーを選定しましょう。
SaaS型ERP導入の注意点
SaaS型ERPを導入する際も注意点がいくつかあります。自社の導入目的や業務フローとの適合性、カスタマイズの可否、コスト、ベンダーのサポート体制など、選定の際に抑えておくべきポイントを紹介します。
ERPを導入する目的が明確か
まずはじめに、ERPを導入する目的を明確にしておきましょう。なぜなら、導入目的を明確にしておかないと、本来必要な機能が抜けてしまったり、逆にさまざまなユーザーの意向を反映しすぎて機能超過になる恐れがあるためです。
例えば、導入目的の一例としてIT部門の稼働削減、工場における生産性向上、業務プロセスの標準化、海外拠点との連携、意思決定の精度とスピードアップなど、導入によって期待する成果を明確にして言語化しておきましょう。
SaaS型ERPの機能が業務フローに合っているか
SaaS型ERPを導入する際、SaaS型ERPは、オンプレミス型などと比べて導入・運用・管理・保守の自社負担が少なくて済む一方で、カスタマイズが効きにくいという特徴があります。
そのため、導入目的に合った機能を備えているのか、標準機能が自社の業務フローに適合しているのかどうかの確認は極めて重要です。業種、企業規模、多言語対応の要否、業務フローによって、必要な機能は変わってくるので、選定の際にはそうした適合性にも注意を払いましょう。
カスタマイズは可能か
SaaS型ERPは基本的に標準機能での利用が前提ですが、業種、業務の特性、導入目的、業務フローによっては一部カスタマイズが必要となる場合があります。
SaaS型ERPについて情報収集する際、カスタマイズの可否やカスタマイズの対応範囲、カスタマイズにかかる期間、追加費用などについて事前に確認をしておきましょう。
コストや導入期間が適切か
低コストかつ短い期間で導入できるのがSaaS型ERPの大きな利点ですが、カスタマイズや導入にあたっての社内教育といった追加オプションなどによっては思わぬ予算オーバーや導入期間の長期化が起こることもあるため、コストや本稼働までの導入期間も事前にベンダーと確認しておきましょう。
特に、既存の業務に合わせてシステム開発をするためにカスタマイズやアドオン開発を行うと、開発コストが増えたり、導入期間が伸びたりする原因になります。SaaS型ERPを導入する際はなるべく標準機能で業務を管理できるように設計しましょう。
ベンダーのサポート体制は十分か
SaaS型ERPは、自社のIT人材が不足していても導入可能なシステムです。しかし、そのぶん導入や導入後の運用がうまくいくかどうかは、ベンダーからの適切なサポートがあるかどうかにも大きく左右されます。
・業務フローの整理や要件定義などの導入時のサポート
・システムトラブル対応や問い合わせなどの導入後のサポート
上記2点について具体的にどのような支援が可能なのかを事前に確認しておきましょう。
まとめ
SaaS型ERPは「コストを抑えて短期間で導入できる」「自社の運用負担を軽減できる」といった多くの利点があります。
一方で自社に合ったSaaS型ERPを正しく選定するには、さまざまな条件で絞り込まなければなりません。できる限り標準機能で業務を管理できるようにするためにも、自社の事業規模や業種での導入実績が豊富なベンダーを選びましょう。
ERP選定を戦略的に進めて、最適なシステム導入ができるよう、本記事を参考にしてください。

KCCSマーケティング編集部
京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)のマーケティング編集部より、製品およびサービスに関連する有益な情報をお届けいたします。お客様にとって価値ある情報を提供することを目指します。
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