ERP要件定義の進め方|手順と成功ポイントを解説
企業がERPを導入する際、重要なステップとなるのが要件定義です。要件定義は、業務要件・非機能要件・システム要件を明確にする工程です。全体最適化や導入後のトラブル防止に直結するため、ERP導入では必須のステップです。本記事では、ERP導入における要件定義の基本的な考え方から具体的な手順、成功のポイントまでわかりやすく解説します。
目次
ERP導入における要件定義の概要
ERPを導入する際、要件定義はシステム導入の土台となる重要な工程です。要件定義とは、企業が実現したい業務上の目標、必要条件、システムに求める機能などを整理し、文書として明確化する作業を指します。要件定義を丁寧に行うことで、設計→開発→運用の各フェーズを円滑に進められます。特にERPは全社業務に関わるため、要件定義をおろそかにすると手戻り・運用不一致のリスクが高まります。各部門のAs-Is/To-Beを整理し、定着しやすい要件定義書を作ることが成功の基盤です。
ERP要件定義の手順
ERPの要件定義には、要望通りの機能を持つERPを導入するための手順があります。ここでは、ERP導入時の要件定義の手順を紹介します。
ERP導入目的の言語化
ERPを導入する際には、まず導入の目的の言語化が必要です。例えば、業務の効率化、情報の一元管理、経営判断の迅速化などが代表的なものとして挙げられるでしょう。目的をKGI/KPI(例:在庫回転日数を20%短縮、月次決算をT+3日で確定)まで具体化し、優先順位と適用範囲を定義します。
Fit to StandardでのERP導入検討
ERPを導入する際、現状の業務に合わせてERPシステムの方をカスタマイズやアドオン開発を行う場合(Fit & Gap)と、ERPシステムに合わせて業務を変更する場合(Fit to Standard)の2パターンがあります。
要件定義の内容を検討する中で、どちらの考えに基づいてERP導入を進めるべきかは、事前にプロジェクトメンバー全体で合意形成をすべきです。しかし、ただ議論を投げかけるだけでは、ユーザー部門のニーズや経営陣の要求に振り回され、なかなか結論が出ない場合もあります。
では、結局どちらの導入方法がおすすめなのか疑問に思う方も多いでしょう。ERPを導入する際、おすすめの方法は「Fit to Standard(FTS)でのERP導入」です。理由は3つあります。
①ERPの導入費用(カスタマイズ開発費・システム保守費用など)を抑えられる
②ERP導入を通じて現在の業務プロセスを効率化できる
③ベンダーがERPの開発・保守を行うため、自社がIT人材不足でも導入できる
Fit to Standard(FTS)方式でERPを導入すれば、基幹システムなどの導入でボトルネックになりがちな費用面を抑えやすくなるでしょう。SaaS型などの、標準機能があらかじめ備わっているERPを選べば費用を抑えることが可能です。事前に、Fit to Standard(FTS)方式で導入するかどうかについて、関係者と合意形成しておきましょう。
Fit to Standard(FTS)についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
参考コラム:ERP導入における「Fit to Standard」とは?業務標準化を推進する新たな選択肢
ERPの要件整理
そもそも要件整理とは、業務に必要な機能や条件を洗い出し、優先度をつけて整理する工程です。具体的には、現行業務の課題を明確にし、解決に必要な機能や改善点を洗い出していきます。課題解決について考える際に重要なのは、MoSCoW(MUST/SHOULD/COULD/WON’T)で優先度を統一し、粒度の基準(機能→画面/帳票→項目→権限)を共有。業務フロー(BPMN)・データ項目・入出力帳票・アクセス権限まで粒度を揃えて整理します。事前に整理した要件は後のシステム選定や設計の基準となり、導入後の満足度を大きく左右します。さらに、関係者間で要件の認識をそろえることで、導入プロジェクト全体の推進力も向上するでしょう。
ERP要件定義書の作成(成果物の範囲定義)
整理した要件を基に、ERPの要件定義書を作成します。定義書には、機能要件/非機能要件(性能・可用性・セキュリティ)/データ移行範囲/外部IF/権限設計/受入条件を明確に記載し、関係者全員が共通の理解を持てるようにすることが重要です。要件を文書化することで、システム設計や開発の指針となり、導入後の運用や改善にも役立ちます。要件定義書は後から見返して確認できるため、プロジェクト全体の透明性と効率を高める重要なツールです。正確で分かりやすい定義書を作ることが、ERP導入プロジェクトの成功確率を高めるポイントとなります。
要件定義のミーティング
ERP導入をスムーズに進め成功させるために、要件定義の段階で情報システム部門、ユーザー部門の責任者、ベンダーの三者が参加するミーティングを行うことが欠かせません。ミーティングでは、整理した要件や要件定義書の内容を確認し、経営層・業務オーナー・情報システム・PMO・ベンダーで決裁経路と変更管理(CR)を明確化します。意見や疑問点を議論して相互に合意を得ることで、導入後の齟齬や予期せぬトラブルを防ぎ、スムーズなシステム開発と運用定着につながるでしょう。
要件定義書レビュー
作成した要件定義書は、関係者全員でレビューを行うことが重要です。レビューでは、記載内容に完全性・一貫性・検証可能性・追跡性(RTM)・受入基準の観点で確認し、承認記録を残します。レビューを丁寧に行うことで、後の設計や開発段階での手戻りを減らせるほか、導入後の運用もスムーズになる点が大きなメリットです。また、関係者全員が同じ認識を持つことで、プロジェクト全体の透明性と信頼性を高めることができます。
不十分な要件定義が引き起こすリスク
要件定義を十分に行わないままいきなりERPを導入すると、システムが期待どおりに機能しなかったり、開発の遅延やコストの増大を招いたりするリスクがあります。想定していた効果を得られないこともあるため、注意が必要です。ここでは、要件定義が不十分な場合に起こるリスクを紹介します。
機能抜け・要件漏れで目的を達成できない
要件定義が不十分なまま導入を進めた場合、最も大きな問題となるのが「本来必要な機能がシステムに組み込まれず、導入後の業務が計画通りに進められない」というケースです。機能不足を補うために追加開発や外部システムの連携が必要になり、余計な手間やコストが発生します。本来の目的である業務効率化や情報の一元管理が達成できず、ERP投資の効果を十分に得られなくなるリスクを回避するためにも、要件定義は丁寧に行いましょう。
仕様ぶれによる手戻りで本番リリースが後ろ倒しになる
要件定義の段階で必要事項を決めきれないままERPの導入を進めると、設計や開発段階で仕様の食い違いが判明し、修正作業が繰り返されます。修正が増えると、予定していたスケジュールに遅延が生じ、リリースが後ろ倒しになるでしょう。システム導入の遅延は、業務全体の計画や部門間の調整にも影響し、関係者のシステムに対する信頼低下を招く恐れがあります。初期段階での丁寧な要件定義が、スムーズなERP導入や信頼向上に直結する重要なポイントなのです。
ERPの開発コストが増える
不十分な要件定義は、開発工程での手戻りや追加作業を引き起こします。想定外の変更要求(CR)が多発し、テストや移行の再作業が発生し、コストが膨張します。初期に範囲(スコープ)と受入条件を明確化しましょう。
ERP要件定義の失敗事例と成功事例
ERP導入では、要件定義の進め方によってプロジェクトの成功率が大きく変わります。失敗事例から学び、成功事例を参考にすることで、導入のリスクを減らし、より効果的にシステムを活用できるように準備をしましょう。
失敗事例:利用部門の巻き込み不足で運用定着しなかった
ある企業では、要件定義の段階で利用部門の意見を十分に取り入れず、情報システム部門だけでERPの導入プロジェクトを進めてしまいました。結果として発生したのが、現場の業務に合わないシステムの導入と、導入後の運用がスムーズに進まず、定着しない事態です。プロジェクトの初期である要件定義から現場の声を反映させ、現場の業務に合わせた機能を組み込むことが、ERP導入を成功させる鍵であることがわかります。
成功事例:利用部門との合意形成で求める機能が明確になった
ある企業では、要件定義の段階から利用部門と情報システム部門、ベンダーが密に連携し、業務上必要な機能や優先度を明確化していました。導入までにこまめなミーティングを重ね、合意形成を丁寧に行ったことで、導入後の運用がスムーズになり、期待通りの効果を得ることができたケースです。初期段階で協力体制を築き、他部門が連携することで、ERP導入の成功率を大幅に向上させ、プロジェクト全体の成果を最大化できます。
ERPの要件定義を成功させるコツ
ERP導入の要件定義を成功させるためには、利用部門の協力やベンダーとの連携、課題の管理方法など、実際の業務に即した取り組みが重要です。以下で紹介するポイントを押さえることで、スムーズなシステム導入と運用定着を実現できます。
ユーザー部門の協力を得る
第一に、要件定義では関係部門の協力を得ることが不可欠です。現場で必要な業務機能や改善点は、実際に業務を行う部門の意見がなければ正確に把握できません。関係部門を巻き込み、定期的なミーティングやヒアリングを通じて、要望を細かく丁寧に整理しましょう。関係部門と協力して作るシステムは、導入後の現場で使いやすく定着しやすいだけでなく、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。
ベンダーに丸投げしない
ERP導入をベンダー任せにすると、本当に必要な要件や業務プロセスが正確に反映されないリスクがあります。要件定義の内容を自社でしっかり把握し、ベンダーと積極的に情報を共有することが重要です。ユーザーとベンダーの双方が認識をすり合わせながら進めることで、想定外の手戻りや仕様の齟齬を減らし、導入後のトラブルや余計な修正作業の発生を防げます。また、こうした丁寧な対応は、ERP運用の安定化や業務効率の向上にもつながり、長期的にシステムの効果を最大化できるでしょう。
課題管理表で開発タスクを管理する
要件定義の過程で出た課題や依頼事項は、課題管理表などで整理し、開発タスクに落とし込むことが重要です。課題について、誰がいつまでに対応するかを明確にすることで、抜け漏れや優先度の混乱を防げるでしょう。また、開発タスクの進捗を可視化することで、関係者間の情報共有がスムーズになり、プロジェクト全体の効率を高めることができます。さらに、課題の管理を徹底することで開発遅延のリスクを最小化し、ERP導入の成功率を大幅に高めることにもつながるでしょう。
まとめ
ERP導入の成功には、要件定義を丁寧に行い、関係部門やベンダーとの連携をしっかりと図ることが欠かせません。要件定義を正確に行うことで、設計や開発の手戻りを減らし、導入後の運用や定着もスムーズになります。InforのSaaS型ERPは、製造業向けの標準基幹機能や生産管理機能を備え、部門間のデータ連携不備によるトラブルのリスクを抑えられることが特徴です。初めてのERP導入でも、標準機能中心の段階導入とFit to Standardを徹底することで、手戻り/コスト/保守負荷を抑えた定着が期待できます。

KCCSマーケティング編集部
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