KYOCERA 京セラコミュニケーションシステム株式会社

ERPのカスタマイズが失敗する要因と成功に導くポイントを解説

ERPのカスタマイズが失敗する要因と成功に導くポイントを解説

ERPシステム導入時に最も多くの企業が直面するのが「どこまでカスタマイズすべきか」という課題です。自社業務に完全に合わせたい一方で、過度なカスタマイズはコスト増加や運用負担を招くリスクもあります。ERPのカスタマイズは“成功すれば業務効率を飛躍的に向上させる”一方、“失敗すれば経営リスクを高める”諸刃の剣です。今回は、ERPのカスタマイズで起こりがちな失敗と要因、成功に導くための重要なポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

 

目次


ERPカスタマイズとは

ERPのカスタマイズとは、ERPベンダーが提供する標準機能を自社固有の業務プロセスや承認フローに合わせて変更・追加・調整することを指します。多くの企業が導入時に実施していますが、開発工数が増えるほどコストもかさむ点が課題です。ERPのカスタマイズについて以下で詳しく紹介します。

ERPにおけるカスタマイズとアドオンの違い

ERPの機能拡張には、「カスタマイズ」と「アドオン開発」の2つのアプローチがあります。カスタマイズは、ERPの標準プログラムそのものを直接改修する手法です。一方、アドオン開発は、既存のERPソフトウェアに対して新たな機能を追加する開発方法を指します。カスタマイズは既存機能の変更や調整が主目的となるのに対し、アドオンはまったく新しい機能の付加が目的です。

どちらの手法を選択するかは、求める機能の性質や予算、今後の拡張性を総合的に考慮して判断する必要があります。一般的に、アドオン開発の方が本体プログラムへの影響を最小限にできるためコストも抑えられ、長期的なメンテナンス性の観点では優れた選択肢と言えるでしょう。

ERPカスタマイズの流れ

ERPカスタマイズの第一歩は、「Fit&Gap分析(フィットアンドギャップ分析)」です。この分析では、ERPの標準機能と自社のビジネスモデルや業務プロセスを詳細に比較し、両者の差分を明確に洗い出します。分析結果に基づいて、まずはベンダーが用意している設定項目での対応を検討します。標準機能だけでは解決できない部分は、プログラム改修やアドオン開発を検討しましょう。重要なのは、カスタマイズ範囲を最小限に抑えつつ、自社の業務要件を確実に満たすことです。

ERP導入形態ごとのカスタマイズ可否

ERPの導入形態によって、カスタマイズの自由度は大きく異なります。フルスクラッチ型は最も柔軟性が高く、オンプレミス型は一定の改修が可能です。一方、SaaS型は設定変更が中心となり、プログラム改修には制限があります。ここではERP導入形態ごとのカスタマイズのやり方について解説します。

自由度の高いオンプレミス型ERP

オンプレミス型ERPは、自社サーバーにパッケージソフトウェアをインストールして運用するシステムです。SaaS型と比較するとカスタマイズの自由度が高く、ソースコードの改修やデータベース構造の変更も柔軟にできます。セキュリティ要件が厳しい企業や、既存の基幹システムとの高い連携性が求められる企業で選ばれるケースが多い形態です。

ただし、サーバー環境の構築や運用管理、セキュリティ対策の実装、バックアップ体制の整備など、IT運用に関する高度な専門知識と経験豊富な人材確保が必要になります。また、システムの更新やバージョンアップ実施時には、カスタマイズ部分の互換性確認や修正作業が発生するリスクもあるでしょう。

自由度は低いが安価で洗練されたSaaS型ERP

SaaS型ERP(クラウドERP)は、クラウドベンダーが提供するERPをサービスとして利用する形態です。一定の利用料を支払って必要な機能だけを導入可能なため、安価で無駄のない導入ができます。運用保守はベンダー側で行われ、セキュリティアップデートや機能追加も自動で適用されるのが大きな魅力です。IT人材が不足している企業でも安心して利用できる点も評価されています。ただし、カスタマイズの自由度は最も低く、大半の機能はテンプレート化された状態から変更できません。そのため、独自の業務要件がある場合は、細かい業務プロセスをERP側に合わせて変更する必要が生じます。標準的な業務プロセスを採用している、もしくは業務を標準化・効率化させたい企業には最適な選択肢と言えるでしょう。

ERPカスタマイズで起こり得る失敗

ERPカスタマイズには様々なリスクが存在し、適切な対策を講じなければ深刻な問題を引き起こしかねません。コスト増大、運用の複雑化、システム連携障害など、企業経営に大きな影響を与える失敗事例が数多く報告されています。ここでは、ERPカスタマイズで起こり得る失敗を紹介します。

導入コストが上がる

ERPカスタマイズで最も頻繁に起こるのが、予算オーバーです。最初の見積もりでは想定していなかった追加要件が次々と発生することで、開発工数が大幅に膨らんでしまいます。特に要件定義が曖昧なまま開発を進めると、後から「この機能も必要」「あの機能もなければ」などの声が上がり、追加費用が発生するケースが多発してしまうのです。また、カスタマイズの複雑度が増すほど、テスト工数やデバッグ作業も長期化する傾向があります。さらに、カスタマイズ部分のドキュメント作成や運用マニュアル整備にも想定以上の時間を要することもあるでしょう。これらの要因が重なることで、当初予算の2倍以上に膨らむプロジェクトも珍しくはありません。

現場に混乱が生じる

カスタマイズされたERPシステムは、標準的な操作方法とは異なる独自の手順を含むことがあります。これにより、現場社員の負担が増えたり、社内トレーニングのコストが上がったりする可能性があるのです。また、システムの操作方法が複雑化すると、現場での入力ミスや処理漏れが発生しやすくなるでしょう。特に深刻なのは、カスタマイズ部分でエラーが発生した際の対処です。標準機能であればベンダーサポートで迅速に解決できる問題も、カスタマイズ部分は自社での対応が求められるケースが多くなります。このような状況が続くと、現場の混乱が深刻化し、ERPシステムの導入自体が業務の安定性を損なう要因となりかねません。

メンテナンスや更新作業が複雑になる

ERPベンダーが提供するシステム更新やバージョンアップの際、カスタマイズ部分との互換性確認が必要になります。標準機能の変更により、カスタマイズしたプログラムが正常に動作しなくなるリスクがあるためです。この互換性テストには多大な時間と費用がかかり、場合によってはカスタマイズ部分の再開発が求められることもあります。また、日常的なメンテナンス作業においても、カスタマイズ部分の動作確認や障害対応には専門知識が必要です。社内にその知識を持つ人材がいない場合は外部ベンダーに依存することになります。結果として、特定のベンダーの製品やサービスに依存することになり(ベンダーロックイン)、バージョンアップなどの際に高額な見積を提示されることにつながるのです。

システム同士で連携できなくなる

ERPをカスタマイズすることで、他のシステムとのデータ連携に支障をきたすことがあります。特に、データ形式や項目名を変更した場合、既存の連携システムとの互換性が失われることもあるのです。会計システムやCRM、在庫管理システムなど、ERPと連携している他のシステムも同時に修正が必要になると、プロジェクト全体の複雑さとコストが大幅に増します。また、将来的に新しいシステムを導入する際も、カスタマイズされたERPとの連携に追加の開発工数が必要です。さらに、API仕様の変更により外部サービスとの連携が困難になるケースもあります。このような連携問題は、企業全体のシステム戦略に長期的な影響を与える重要な課題となるでしょう。

ERP導入を成功させる方法

ERPカスタマイズの失敗を避け、プロジェクトを成功に導くためには、戦略的なアプローチが不可欠です。明確な導入目的の設定、標準機能の最大活用、業務プロセスの見直しなど、計画的な取り組みが重要となります。ここでは、ERPの導入を成功させる方法を解説します。

ERP導入目的を明確にする

ERP導入プロジェクトを成功させるためには、まず導入目的を明確にすることが重要です。「業務効率化」「コスト削減」「情報の可視化」など、何を解決したいかを具体的に明文化しましょう。目的が曖昧なまま導入を進めると、現場から「この機能も追加したい」「あの業務にも対応してほしい」など要望が次々と出て、不要なカスタマイズが増える原因となります。明確な目的があることで「本当にこの機能は必要なのか」「標準機能で代替できないか」「カスタマイズしてまで実現すべきか」といった視点から、要件を冷静に判断できるはずです。導入目的を軸とした意思決定により、過度なカスタマイズを避け、プロジェクトを成功させられるでしょう。

ERPに合わせて業務を変える

ERP導入を成功に導くカギは、「Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)」という考え方の実践にあります。これは、ERPの標準機能に業務を合わせるという導入手法を意味します。つまり、既存の業務プロセスをERPの標準機能に合わせて変更するアプローチを優先するのです。多くの企業が陥る失敗パターンは、現在の業務手順をそのままシステム化しようとして起こります。しかし、ERPパッケージには多くの企業のベストプラクティスが盛り込まれており、標準機能を活用すれば業務品質の向上が期待できるのです。業務プロセスの変更には現場の抵抗もありますが、変更による効果を具体的に説明し、段階的に移行すれば理解を得られるでしょう。これにより、カスタマイズコストを大幅に削減しながら業務効率化を実現できます。

標準機能を最大限活用する

ERPの標準機能には、長年の開発・改良により蓄積された豊富な機能が含まれています。カスタマイズを検討する前に、まずは標準機能で業務要件を満たせないかを徹底的に検証することが重要です。設定項目の調整、ワークフローの設定、レポート機能のカスタマイズなど、プログラム改修を伴わない範囲での対応方法を探ります。これらの標準ソリューションを組み合わせれば、多くの業務要件はカバーできます。どうしても標準機能では対応できない部分のみに限定してカスタマイズすることで、リスクとコストを最小限に抑えながら必要な機能を実現できるでしょう。

まとめ

ERPカスタマイズは、導入効果を最大化できる一方で、失敗すれば高コスト化や運用負担を招くリスクもあります。成功の鍵は、導入目的の明確化、標準機能の最大活用です。カスタマイズを検討する際は、本当に必要かどうかを慎重に判断し、可能な限り標準機能での対応を優先しましょう。ERP導入やカスタマイズに関するご相談は、豊富な実績と業務ノウハウを持つKCCSへ。お客様の課題に合わせた最適な導入計画をご提案します。

 

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