デジタルアーカイブとは?その意義と活用方法について解説
目次
デジタルアーカイブとは?その歴史、必要性と意義
デジタルアーカイブとは?
デジタルアーカイブとは、情報や資料をデジタル形式で保存し管理するシステム、つまり「長期保存を目的としたデータの集合体」です。資料をデータ化することには、紙や写真などの資料が受ける物理的な損傷や経年劣化から資料の消滅を防ぐ効果があります。
デジタルアーカイブの歴史
デジタルアーカイブの歴史は1990年代までさかのぼります。情報技術の進化を背景に、資料をデジタル化することで、アクセスしやすい形で提供する取り組みが始まりました。
1990年代初頭 | 日本国内でインターネットが普及し始め、公立図書館や研究機関が デジタル化の重要性に注目 |
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1994年 | 月尾 嘉男氏(東京大学名誉教授)が「デジタルアーカイブ」を日本 において初めて紹介・提唱 |
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1996年 | デジタルアーカイブ推進協議会(JDAA)が設立 | |
2001年 | 政府による「e-Japan重点計画」が立案され、美術館・博物館、 図書館などの所蔵品のデジタルアーカイブ化が推進 |
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2005年 | 国立国会図書館が「国立国会図書館アーカイブポータル」を開設 | |
2009年 | 著作権法改正、国立国会図書館において権利者の許諾なく デジタル化が可能に |
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2017年 | 内閣府が「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」 を公表 |
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2019年 |
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改正著作権法が施行(アーカイブの利活用促進に関する改正を 含む) |
デジタルアーカイブの必要性と意義
情報を手軽に入手できる環境は、人のコミュニケーションや意思決定において非常に重要な要素です。一方で、時間や環境に起因したさまざまな制限によって容易に情報へアクセスできない人々もいます。そういった人々にとって、デジタルアーカイブは時間や場所、制限にとらわれずに情報へアクセスすることができます。
地方公共団体において、デジタルアーカイブはある地域の過去の風俗や災害を記録した写真や映像といった貴重な資料を保存する役割を持っています。こういった資料は郷土学習への活用や次世代への文化・被災経験の継承に利用できるため、デジタルアーカイブは地域の文化遺産の維持に貢献できます。
デジタルアーカイブを支える技術
最新のデジタルアーカイブ技術
デジタルアーカイブ化された古文書や写真などの資料を検索するには、タイトルや作者、作成された年代、資料の内容説明といったメタデータ(資料を特定するために資料にひも付けた情報)、資料のサムネイルやプレビューなどが必要になります。
内閣府知的財産戦略推進事務局によって策定された「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」においては、メタデータの必須項目として次のような項目が示されています。
- タイトル(ラベル)
- 作者(人物)
- 日付(時代)
- 場所
- 管理番号(表内で重複しない恒久的な識別子)
デジタルアーカイブの構築において、メタデータの制作は資料検索の仕組みに直結するため非常に重要な工程です。こういったデータを取得するために、OCR(光学文字認識)やAI画像認識といった技術が活用されています。
OCRは資料の紙面上に記述、あるいは印刷されているテキストを認識・データ化する技術です。AI画像認識は、AIが画像の内容や特徴を解析することで、関連するメタデータを自動生成する技術です。
OCRやAI画像認識といった技術を用いることで、大量の資料からデータ抽出とメタデータの制作が迅速かつ正確に行えるようになります。
地方公共団体におけるデジタルアーカイブの活用事例
地方公共団体におけるデジタルアーカイブは、展示会や教育といった場面で活用されています。
デジタル展示
デジタルアーカイブを利用した展示会は「デジタル展示」と呼ばれます。デジタル展示は、特定のテーマに関連したデジタル文書や写真、アート作品などを視覚的に効果のある方法で展示し、電子ネットワーク上で閲覧できる展示会です。また、スクリーンなどに資料を投影したり、ウェブサイト上に展示会を開いたりと、ハイブリッドに資料を展示することができます。
そのため、デジタル展示では展示における表現の幅がさらに広がり、さまざまな工夫を加えることができます。
地方公共団体によるデジタル展示は、主に地域の歴史や文化への関心と理解を深める手助けをしています。地域住民に加えて、地域外からの訪問者も当地域の歴史や文化にアクセスできるようになり、地域の知名度向上や活性化に貢献しています。
【参考】国立国会図書館サーチ NDLギャラリー 「錦絵と写真でめぐる日本の名所」
ワークショップ
教育活動でのデジタルアーカイブの利用は、特定のテーマに基づいたセッションを提供するワークショップの開催であったり、学校の授業資料としてデジタルアーカイブ利用したりとさまざまな形式があります。
ワークショップでのデジタルアーカイブの活用は、講義やセミナーの資料として利用する教育型のものや、参加者の持ち込んだ資料を用いてデジタルアーカイブ制作を体験するような参加型のものなど幅広くあります。後者の参加型のものは、持ち込んだ資料から地域での暮らしや景色の変化などを見て取れるため、地域文化の振り返りや次世代への伝達などに活用されています。
【実施例】
京都府伏見区 深草地域の文化「保存・継承・創造」プロジェクト
学校の授業資料としてのデジタルアーカイブは、一例として、地域文化の学習に活用されます。デジタルアーカイブには閲覧場所や数の制限がないため、大人数の利用に最適です。複数資料の比較や、ズームインやズームアウトといった詳細までの観察が可能です。さらに、デジタル化された資料を印刷、他電子ファイルへの貼り付け、動画の制作といったような利用方法があるため、生徒が自由にアウトプット形式を選べます。デジタルアーカイブは、教材として生徒に「知識を与える」だけでなく、教材を通して「知識を利用する」新たな学びの機会を提供しています。
【実施例】
東京都港区 港区のデジタルアーカイブ資料を活用した「教材化」ワークショップを開催しました
デジタルアーカイブに関する課題
法的課題
デジタルアーカイブを利用する際に、資料の帰属先といった著作権に関連する課題はしばしば指摘されています。
著作権法改正などによって権利の明確化に向けての取り組みも行われておりますが、法制度や権利処理に関わる問題は著作権だけでなく、所有権、肖像権、パブリシティ権などの権利にも関連しています。
このような課題を解決していくために、産官学民を横断した取り組みが行われています。
また、データが情報提供者の意図しない目的で利用されることを防ぐために、公開する情報の各種権利について明記する必要があります。他にも、閲覧、保存、加工、再配布などのルールも決めておき、法に基づく運用を徹底する必要があります。
コスト的課題
資料のデジタルアーカイブ化のコストに加えて、資料を利用者に提供するプラットフォームにもコストがかかってしまうことは、デジタルアーカイブの課題の一つであります。
デジタルアーカイブ専用のプラットフォームもありますが、弊社が提供する公共図書館システムでは、標準機能として簡易的なデジタルアーカイブが利用できます。既存の図書館システムを活用することができればスモールスタートでデジタルアーカイブを始めることができます。
【図書館システムでのデジタルアーカイブの利用例】
鎌倉市図書館 デジタル資料
まとめ
地方公共団体におけるデジタルアーカイブの活用は、地域のアイデンティティである文化遺産の維持に貢献することができます。また、デジタル化された資料は地域の歴史や文化を保全・継承するため、教育的価値があり、新たな教育機会を市民に提供することができます。デジタルアーカイブは、地域コミュニティ内での共有の場を創出し、地域のアイデンティティ強化の手助けとなっているといえるでしょう。
デジタルアーカイブは単なる「保存技術」にとどまらず、地域文化の発信や教育、文化交流が行える新しいプラットフォームとして進化することが期待されています。
KCCSマーケティング編集部
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