今、求められている図書館サービスとは 地域社会のニーズに応える取り組みや新しい機能
これまで、学びスペースの提供や本・資料の貸出サービスによって「地域の社会教育施設」としての役割を果たしてきた公共図書館。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により、従前の「来館を前提とした図書館の在り方」には変化が求められています。
時代や利用者のニーズに合わせて、図書館サービスもより「利用価値の高いもの」へと変わっていかなければなりません。本記事では、これまでの図書館の在り方や変遷を紹介しながら、「今、求められている新しい図書館サービス」について解説します。
目次
図書館サービスの進化の歴史
時代が移り行く中で利用者のニーズは変化し、それに合わせて図書館サービスも変わり続けてきました。「今、何が求められているのか」を整理するために、まずはこれまでの図書館サービスの変遷を3つの転換期に分けて見ていきましょう。
1990年代 Webサービス黎明期
アナログ対応が基本だった図書館サービスがシステム化されたのは、1990年前後のことです。そしてMicrosoft Windows 95の発売によって一般家庭にもパソコンが普及し始め、インターネットの活用が本格化しました。そうした時代の流れをくみ、図書館サービスにおいてもOPAC(Online Public Access Catalog/オンライン蔵書目録検索システム)のサービス利用が普及し始めます。OPACによって利用者はパソコンから本の内容や所蔵情報を検索できるようになり、利便性が大きく向上しました。
関連記事:図書館で読みたい本を効率的に検索、予約!蔵書検索システム(OPAC)とは
2000年~2010年代 滞在型図書館とICT活用
大型ショッピングモールやテーマパークのオープンが続くなど、2000年代以降は利用者の「長時間滞在」を見据えたマーケティング戦略が主流となりました。図書館においても、「本や資料の貸出にとどまらないサービス提供施設」への移行が顕著になり、開架書架や閲覧席を広く確保した「快適に過ごせる図書館」の建設が進みます。2010年代に入ると、Webサービスの拡張に伴ってICT活用が本格化していき、武蔵野プレイス(東京都)や岐阜市立中央図書館(岐阜県)といった今日においても評価の高い施設が開館しました。
2020年代 コロナ禍による非来館型へのシフト
2010年代には滞在型図書館とICTの連動が期待されたものの、2019年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響拡大によって、利用者の来館自体が困難な状況に陥りました。コロナ禍では滞在時間を極力短くすることを目的にオンラインを主体とした非来館型や非接触型のサービスが模索され、電子図書館やオーディオブックなどがこれまで以上に注目されるようになりました。
非来館型サービス、日本の図書館は遅れている?
スイスの国際経営開発研究所「IMD」が発表した「IMD世界デジタル競争力ランキング2022」によると、日本は29位で、デジタル化で後れを取っていることが明らかになりました。同ランキングで2位になったアメリカのケースを紹介しながら、日本の図書館サービスの現状を解説します。
注目度が高まる「電子図書館」とは
非来館型サービスの拡張を進める上でデジタル化は必須であり、その中で特に注視すべきキーワードが「電子図書館」です。電子図書館とは、パソコンやスマートフォンなどの活用によって、ネットワークを介して電子書籍を借りたり閲覧できたりするサービスを指します。来館が前提だった図書館サービスを、いつでもどこでも利用できるのが大きなメリットです。
アメリカでは電子図書館がすでに浸透
アメリカでは約95%の公共図書館で電子書籍やオーディオブックの提供を行うなど図書館サービスとしてすでに定着しています。米・オーバードライブ社が提供するアプリ「Libby(リビー)」を使用すれば、あらゆるジャンルの電子書籍やオーディオブックをオンラインで楽しむことが可能です。
「Libby」は2017年にリリースされており、2022年1月時点で94カ国以上、計7.6万以上の図書館や学校と提携するなど、今日では国の垣根を越えて多くの図書館で利用されています。
日本の図書館サービスの現状と課題
一般社団法人電子出版制作・流通協議会が発表した「電流協、電子図書館サービスを導入している公共図書館情報」によると、電子図書館サービスを提供しているのは2023年7月時点で403館。日本図書館協会の「公共図書館集計(2022年)」によれば、公共図書館の総数は3,305館なので、電子図書館のサービスを提供している割合は約12%にとどまります。
こうした中、日本の図書館でも電子書籍やオーディオブックといったサービスを求める声は少しずつ大きくなっています。図書館のサービスはこれまで、常に利用者の要望や技術革新に合わせてその形を変えてきましたが、コロナ禍により非来館型へのシフトが進んだ今こそ「デジタル化に対応し、図書館の付加価値を高めるタイミング」と言えるのではないでしょうか。
今後の普及・進化が期待される図書館サービス
今日においてトレンドとも言える取り組みが、前の章で触れたデジタル化です。以下では、デジタル化によって今後さらなる普及・進化が見込まれる「新しい図書館サービス」を例示し、特徴やメリットを紹介します。
その1:マイナンバーカード
行政サービスの一環として、マイナンバーカードを図書館サービスに利用できる仕組みを整えている地方公共団体が増えています。これまで、図書館サービスを利用するには「図書カード」を別途作成する必要がありましたが、その機能をマイナンバーカードに集約できます。
マイナンバーカードのICチップ領域には利用者証明用電子証明書が内蔵されており、カードの受け渡しをせず読み取り機にカードを置くだけで図書館サービスを利用できます。手軽さはもちろん、接触機会が減るため感染症予防にも有効です。
その2:デジタルアーカイブ
所蔵されている多くの資料をデジタル方式で記録し、データベースとして保管する取り組みがデジタルアーカイブです。図書館が保有する文献情報という資産を「場所を取らず、劣化させずに保存できる」ことに加え、ネットワークを通してデータの共有・閲覧・発信が容易になりました。
デジタルアーカイブの利点は、紙では貸出不可能な歴史的価値の高い資料などをオンライン上で閲覧できることです。高精細ビューアや3Dデータで情報公開すれば、資料の全体像や内容をより詳細に確認できます。地方公共団体が保持する貴重な文献を、利用者により身近に感じてもらうことも可能です。
その3:オンラインレファレンス
利用者の調べ物に関する質問に対して、参考になる資料や記事、オンライン上の情報を提供するのがレファレンスサービスです。プライベートからビジネスまでさまざまな調べ物の相談に乗ってくれる図書館もあります。質問内容に対して役立つ資料やその探し方のヒントを提供する目的で以前から運用されていますが、近年ではそうした「お手伝い」をオンラインで完結する仕組みが注目されています。従来のレファレンスサービスは、対面や電話、Webフォームを活用した対応が主流でした。しかし今日では、AIを活用した支援を行う地方公共団体も増えています。利用者は24時間いつでもどこからでもAI チャットボットに問い合わせが可能です。SNS などと連携したレファレンスサービスもあり、より手軽に図書館サービスを活用できる環境が整備されてきています。
その4:バーチャル図書館
近年はメタバースをはじめサイバー空間上でのコミュニケーションや商取引などが注目されていますが、図書館をバーチャル上に構築するユニークな取り組みも始まっています。インターネット環境さえあれば、リアルと融合した非来館型サービスとして「非接触で書架ブラウジング(図書館の書架間を歩きながら本を探すこと)をしてほしい資料を探す」といった利用も可能です。
また、地域性や住民・利用者の意向に寄り添った独自のレイアウトや個性的な内装なども実現できます。仮想空間なので新築やリノベーションといった物理的な建設作業は発生せず、図書館の営業を停止する必要もありません。さらに、リアルでは立ち入れない書庫や専門室も開放できるなど、アイデア次第でさまざまな試みができるでしょう。「自宅などにいながら図書館体験ができる」というのは、利用者にとって大きな魅力になり得ます。
【まとめ】発展し続ける図書館サービスのこれから
コロナ禍を機に、日本の図書館でも急速にデジタル化や非接触型・非来館型サービスの重要性が注目されるようになりました。利用者のニーズが「コロナ前」に逆戻りすることは考えにくく、今後もそうした動きは続くと考えられます。来館者はもちろん、非来館者にも「また利用したい」と思ってもらえるような「次世代型図書館」の実現が求められるのではないでしょうか。
電子図書館をはじめとする非来館型サービスは今後のスタンダードになることが期待されており、バーチャル図書館などの「より先進的な取り組み」もこれから次々と導入されていくはずです。その中で各地方公共団体は、「利用価値の高い図書館サービスとは何か」を考え続けていく必要があるでしょう。
KCCSマーケティング編集部
京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)のマーケティング編集部より、製品およびサービスに関連する有益な情報をお届けいたします。お客様にとって価値ある情報を提供することを目指します。