オーディオブックは気軽に『聴けるコンテンツ』新しい図書館の利用法の提案
近年、「第二の書籍」こと電子書籍の人気が高まっています。株式会社インプレスが発表した「電子書籍ビジネス調査報告書2023」によると、2022年度の電子書籍の市場規模は6026億円、2027年度には8000億円への成長が見込まれています。一方で、電子化とは別の新しい観点での「第三の書籍」が注目されていることをご存じでしょうか。それが「オーディオブック」です。カセットテープなどの従来ある図書館サービスと比較しても、より気軽に聴けるコンテンツと言えます。公共図書館においても、着実にオーディオブックの導入が増えています。
目次
図書館でオーディオブックの導入が進む背景
本を耳で聴けるオーディオブックには、紙や電子とは異なる可能性を秘めています。それは、目が見えないなどの障害がある方でも書籍を楽しめる機会を提供できる点です。音声読書によって図書館サービスの利用価値向上はもちろんのこと、SDGsや法対応という社会的意義においても、オーディオブックは大きな意味を持ちます。
オーディオブック活用で実現するSDGs
近年では、持続可能な社会を形成するための開発目標であるSDGs(Sustainable Development Goals)の考え方が重要視されています。それは図書館運用においても例外ではありません。地域で暮らす誰もが公平に学びの機会を得られる図書館は、SDGsの2030年までに達成すべき17の目標のうち、「4:質の高い教育をみんなに」「16:平和と公平をすべての人に」の2つの考え方に通じるところがあります。
4:質の高い教育をみんなに | 16:平和と公平をすべての人に |
図書館を通して、乳幼児から高齢者まで地域で暮らすすべての住民が自己教育できる環境を支援。 | 図書館を通して、「情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する」などの目的を実現。 |
法律を意識した「誰もが利用できる図書館」
図書館でのオーディオブック導入が進むことで、2つの法律を意識することにもつながります。それが2018年4月に施行された「障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」と2019年6月に施行された「読書バリアフリー法(正式名称:視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)」です。
障害者差別解消法においては、障害者への合理的配慮の提供や「誰もが利用できる図書館」の実現に寄与します。読書バリアフリー法は、視覚障害者らが利用しやすいメディア(点字・拡大図書・音声読書など)の充実と、円滑な利用のための支援につながります。
全国公共図書館協議会が発表した「2021年度(令和3年度)公立図書館における読書バリアフリーに関する実態調査報告書」によると、全国の公共図書館の音声コンテンツ所蔵率は、カセットテープが30.6%、音声デイジー(視覚障害者向けの録音図書)が26%、その他の障害者向け録音資料(落語やオーディオブックを含む)が18.4%と割合はあまり多くありません。オーディオブック導入は2つの法律を踏まえつつ、「誰もが利用できる図書館」の実現に大きく寄与することが期待されます。
図書館オーディオブックサービスの導入実績・活用状況
書籍の朗読も多数リリースされているオーディオブックは、図書館においても導入が着実に増えています。では実際に公共図書館での導入実績・活用状況はどの程度なのでしょうか。公共図書館向けにオーディオブック配信サービスを提供する京セラコミュニケーションシステム株式会社(以下、KCCS)の導入実績・活用状況を一例として紹介します。
公共図書館で進むオーディオブックの導入
KCCSが展開する「オーディオブック配信サービス」は、全国の公共図書館で導入が進んでいます。2023年9月現在では12地方公共団体56館で取り入れられています。導入館名は下記の通りです。
【KCCSの公共図書館への「オーディオブック配信サービス」導入実績】
施設名 | 導入時期 |
---|---|
奈良県奈良市立図書館(3館) | 2020年5月1日~ |
東京都八王子市図書館(9館) | 2020年6月1日~ |
愛知県日進市立図書館(単館) | 2020年12月24日~ |
東京都文京区立図書館(10館) | 2021年1月11日~ |
滋賀県大津市立図書館(4館) | 2021年2月1日~ |
大阪府箕面市立図書館(5館) | 2021年3月1日~ |
和歌山県紀の川市立図書館(2館) | 2021年4月1日~ |
東京都台東区立図書館(7館) | 2022年1月10日~ |
埼玉県越谷市立図書館(4館) | 2022年2月1日~ |
京都府立図書館(単館) | 2022年5月1日~ |
栃木県小山市立図書館(4館) | 2022年11月1日~ |
千葉県佐倉市立図書館(6館) | 2023年3月1日~ |
オーディオブックの総再生時間の推移
【累計利用時間推移】
※計測期間:2020年9月~2023年7月
オーディオブックの利用はサービス開始以降、(総再生時間で)常に右肩上がりの増加を続けています。2023年7月時点でのKCCS「オーディオブック配信サービス」における(2020年9月からの)約3年間の累計再生時間数は1万4000時間以上を記録。公共図書館での導入数増加に伴い、さらなる利用拡大も見込まれます。
人気カテゴリ・人気コンテンツ
KCCS「オーディオブック配信サービス」でのカテゴリ別再生時間割合(集計期間:2020年9月 ~ 2023年7月)を見ると、文芸・落語が 68%であり、大多数を占める人気カテゴリです。続いて講習会の13%、自己啓発11%、ビジネス7%と学びにオーディオブックを活用している傾向が見られます。
また、再生時間数をもとに集計したランキングでは、黒田如水が1位になるなど歴史・時代小説が上位に入りました。歴史そのものや過去の人物に関する情報を聴いておさらいするなど、オーディオブックはさまざまな楽しみ方を提供しています。このように、音声読書を通しての「学び直し」や紙の本で読むことを断念した「リベンジ読書」の手段としてもオーディオブックが注目されているようです。
集計期間:2020年9月 ~ 2023年7月
オーディオブックの活用で図書館サービスの選択肢が豊かに
活字が苦手な方の文学に対する興味喚起、学習効果をより高めたい若い世代の専門知識への理解補助など、オーディオブックはその活用の幅において大きなポテンシャルを秘めています。
日常でのオーディオブック活用シーン
近年ではタイパ(タイムパフォーマンス)を意識し、本を読む時間を惜しむ方もいるかもしれません。オーディオブックなら、他の作業をしながらでも耳で聴くことができます。テレビや動画などの「ながら視聴」が一般的になりつつある現代において、時間効率を意識してコンテンツを楽しめます。
また、電車での移動中やランニングをしながら聴くなど、場所や時間の制約を受けにくい音声読書は、年代を問わず「人」の数だけ楽しみ方があるのかもしれません。図書館を利用する方の選択肢を増やす意味でも、オーディオブックは図書館サービスの可能性を広げてくれるのではないでしょうか。
オーディオブックは、対話型AIを搭載したスマートスピーカーと連携することで、タッチ操作などをせずに会話や言葉によって再生や一時停止などを指示することが可能です。そのため、家事をしながら、あるいは子どもの就寝時の読み聞かせシーンでも活躍します。私たちの日常生活に新しい読書体験をもたらしてくれます。
図書館の非来館サービスがさらに充実
従来までの図書館サービスは、館内で資料を読んだり借りたりするなど、来館を前提としたサービスが主でした。しかし、コロナ禍によってリモート・非接触での対応が多くの方々の日常生活に定着した現代では、PC・スマートフォンで利用できる非来館サービスの充実が望まれます。例としては、近年、導入が進んでいる電子図書館などが挙げられます。
公共図書館でオーディオブック導入が進むと、図書館に通うことなくオンラインでオーディオブックを楽しめます。また、図書館が提供するサービスは基本的に無料なので、手軽に作品や資料を聴くことも可能です。図書館DXが進む昨今において、オーディオブックの導入は図書館との関わり方自体の変化にも大きく貢献することでしょう。
公共図書館の活用(サービス)の拡充
時代の変化に伴い、公共図書館が担うべき役割もより拡大傾向にあります。その1つとして、学校図書館との連携です。文部科学省は、2022年8月に事務連絡として、「1人1台端末環境下における学校図書館の積極的な活用及び公立図書館の電子書籍貸出サービスとの連携について」を発出しています。
学校の児童生徒に対し、公立図書館の電子書籍貸出サービスIDを一括で発行している大阪府東大阪市と北海道帯広市の事例を紹介し、文部科学省としても公共図書館のより多角度な活用を促しています。長期休業期間中や感染症などの非常時で登校できない児童生徒が、自宅などで学習できる機会創出の一環としても非常に効果的です。それに加えてオーディオブックも活用できれば、音声学習の幅も広がるでしょう。
【まとめ】オーディオブック活用で図書館サービスのカタチはより多様に
本などを読む場所、借りる場所として多くの方々に親しまれてきた図書館ですが、従来のサービスはそのままに、時代に合わせた新しいサービスのカタチを取り入れ始めています。オーディオブックの活用は、その代表的な例の1つだと言えるでしょう。これからの図書館は、誰もがいろんな手段で読書を楽しめることがより重要となるはずです。図書館サービスの多様性の実現――オーディオブックはその象徴となるかもしれません。
KCCSマーケティング編集部
京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)のマーケティング編集部より、製品およびサービスに関連する有益な情報をお届けいたします。お客様にとって価値ある情報を提供することを目指します。